2014/03/02

手間と時間がかかるほど愛おしい


 部屋の掃除をしてたら、この小さいフォルクスワーゲンのtype2のおもちゃが目に留まった。実は、学生時代に部活の先輩がこの赤いtype2に乗っていた。その先輩の結婚パーティーで頂いたものだ。部活の先輩後輩に出会うと、今でもこの車の話で盛り上がれる。

 60年代生まれのtype2は9人乗り。もちろんMTだけど、4速までしかない。雨の日に乗せてもらうと車内は水浸し。シートベルトはついてなかった。燃費はリッター4km。ガソリンスタンドに寄ったら、「ここまで入れて下さい」と細かく指定しながらガソリンを入れていた。満タンにするとガソリンが漏れるらしい。後部座席は取り外すことができるふわふわのソファーだった。段差があると、みんなソファーに弾かれて天井に頭を打ちかける。本当に、何百回と乗せてもらった思い出の車だ。
 家まで送ってもらったことも何度かあるけど、家の500メートル手前でいきなりエンストしたのも懐かしい。しかも、先輩は全然動じない。

 この車で高速道路を走ると、どんどん車が中央分離帯に寄っていく。「寄ってませんか?」というと、先輩はハンドルを切りながら、いつも笑顔で
「あー、ごめんなぁ。古いから、たぶん車軸曲がってるねん。危ないよなー」
 後続車がどんどんtype2を抜かしていく。
「この車、80kmしか出えへんねん。高速走ったらあかん車よなぁ」
「車検通るんですか?」
「うーん、なんとか通るんやけどなぁ、あははははは」

「先輩、これ走行距離何キロなんですか」
「さあなー、俺も知らんねん。何回目かの15万キロやわ、何回目かは知らんけど」

 「時間がかかる」「手間がかかる」。車としてはいろいろ問題ありなのに、不思議とみんなに愛される車だった。持ち主である先輩の人柄もあったのかもしれないけど。
 「好きなものに情熱燃やしすぎて困る」と彼女さん(現在の奥さん)によく言われていたっけ。キャラクターのグッズ集め、自作のキャラクターの本を自費出版、グッズ作り、楽器の演奏…と、どれもこれも「極み」まで行ってしまう人だった。料理を作ってもプロみたいなものができる人だった。

 私は教育学部で教師を目指し、大学が違った先輩は医学部で医師を目指していた。
 何科に行くんですか、と聞くと、俺は内科やなぁ…と一言。俺は田舎から出てきたし、田舎でじいちゃんばあちゃんから、せんせーって呼ばれるような感じで医者できたらいいなあ、と。
 
 今その先輩は昔の言葉の通り、地域医療の世界にいる。総合病院ではなく、診療所を開いている。小さな町の病院で、24時間いつでも呼ばれる仕事だ。僻地と呼ばれるところへ往診に行き、夜でも駆けつけて看取る。手間や時間がうんとかかる仕事に身を投じるところに、type2を愛していた先輩の姿が重なるような気がする。


 対照的に、何をかじっても中途半端だなぁと最近の自分を反省。好きなものは多いけど、あまり器用じゃないから、結果は浅くなってしまう。打楽器が一番長く続いているけど、チークドラムをやったときも、左手の動きの衰えに愕然とした。最近バチ使うことがないから、そういう機会も作らなくては。自転車も寒くて乗れてなかったし。
 自分の愛するものごとに、たとえ手間や時間がかかっても、もう少しじっくり取り組みたい。その手間や時間を楽しみたい。ヒマではないけど、「時間がないから」と言い訳もせず、あくせくもせず。

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